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バルーン空撮[技術解説] - 新型の開発は一時停止

過去最高性能となる予定の最新式バルーン

寒冷地様バルーン

←2009年1月29日撮影
昨年末からテストと実務導入を開始した、最新式のバルーン5号機についての検証結果をご報告します。
改良内容は寒冷地専用バルーンテストページにて詳しく書かれています。

  • ヘリウムガス容量の増量
  • 撮影機材の単純化と軽量化
  • 突風対策
  • 下降気流対策

    このテストに至るまでに、約1ヶ月間の実務をこなしてきました。
    本来なら過去最高の性能となるべき、最新バルーンなのですが・・・
    性能面にて不満が出てきました。
    明らかに、旧型よりも対風性能が劣っていたのです。

    そこで、新型の欠点を明らかにするためにテストを行うことにしました。
    テスト場所として選んだのは真冬の富士山4合目。
    低温+高地+風
    普通のバルーン空撮会社ならば「撮影は不可能」と即答するような過酷な条件下でのテストです。
    性能が低いと言っても、0[Zero]のバルーンは世界トップクラスの性能を有しています。
    極限条件に置かないと、弱点を炙り出せないというレベルに達しています。

  • 旧型:圧倒的な対風性能

    垂直に上がる車載式バルーン

    バルーン繋留角度解説にて、0[Zero]のバルーンは風速5m/sの風にもかかわらず垂直に浮上するという驚異的な対風性能を示しています。
    この時に用いているバルーン最新式となる5号機ではなく、旧型の4号機を用いていました。
    既に、5号機は実務に導入していたのですが撮影場所が熊本(山梨からは1,000km以上離れています)であったために、バルーン空撮専用車両ではなく長距離移動に最適なワゴン車にて撮影を行っていました。(現地にて、ヘリウムガスの充填)

    最新型では軽量化300gに相当する、ヘリウムガス量300L増量と言うのが最大の特徴です。
    空力設計は旧型と同じなので、性能は更に上がると目論んでいました。

    新型:実務性能に不安

    都市部での夜景空撮

    2009年1月の実務は全て新型にて行ってきました。
    案件の中では都市部での夜景パノラマ撮影などの、他社では達成率が極端に低い案件なども含まれていました。

    ←この場所から、上空100m以上の高さにて夜景パノラマ空撮を行っています。(実際に撮影された画像はお客様から公開許可をいただいてないので非公開とさせていただきます)

    この様な実務をこなしている中で、一つの疑問が出てきました。
    昨年12月29日の撮影の様な、凄味がある程のバルーン性能が無い・・・
    ←この案件でも、風速3m/sを超えた段階で撮影は中止とせざるを得ませんでした。
    確かに、ビル風なども吹く条件なのですが旧型ならば5m/sでも撮影できる条件と思っています。 この日の業務は運良く完了出来たと思っています。
    夜景撮影のベスト時間に風速3m/sの風が吹いていたら仕事は完了出来ませんでした。
    昨年の春から、続いていた撮影完了率100%の記録が途絶える寸前まで追い込まれた実務でした。

    新型の寒冷地テストを行う

    富士山四合目 大沢駐車場

    ここからが本題です。

    性能の確認にはテストしかありません。
    実務が入っていなかったことと、快晴になったことから、富士山スバルラインにてのテスト撮影を行ってきました。
    標高は2000mオーバー。風は最大で6m/sという、バルーン空撮には悪い条件にてテストに挑みます。
    その結果は・・・予想通り、旧型に劣るという結果の確認となりました。

    同じ場所では無いのですが過去にも1500mオーバーの条件にて何回かのテストを行っています。
    特に、昨年の夏以降の、最新世代となった3号機以降の機体の中で比べると、もっとも性能が低いという結果が示されました。
    ヘリウムガスの容量が最大であることから、浮力そのものは十分あるのです。
    風速2m/s以下なら、この場所でも問題なく撮影ができます。
    しかし・・・瞬間で5m/sを超える突風が出てくると姿勢の乱れが出てきます。

    新型の大きな欠点

    姿勢が乱れたバルーン

    この日のテストでは移動を含み数カ所にてテストを行いました。
    これは乱流の影響の有無を交えて過去のバルーンと比較を行うとしたからです。
    数時間に及ぶ、乱流の中のフライトで導き出せた答えは・・・ バルーンの対風性能はヘリウムガス容量で決まらない!

    0[Zero]のバルーンは車載可能なほどコンパクトなのに対風性能が高いことが特徴です。
    ヘリウムガスが少ない事を空力特性で補うというのが特徴です。
    最新式の5号バルーンでは微妙にサイズが変わったバルーン部の空力特性が変わったことにより姿勢の乱れが発生していることが確認出来ました。
    本当に、わずかなサイズの違いなのですが大きな結果に表れています。

    新型の場合

    • 1):風見鶏効果が弱い
    • 2):そこに、横風が入る
    • 3):バルーンの姿勢は乱れ、さらに流される (上の写真がこの瞬間)
    • 4):2に戻り、さらに流される

    旧型の場合

    • 1):風見鶏効果が強い
    • 2):突風が吹くと、その方向に瞬時に向く
    • 3):風は常に、前方から入りバルーンは垂直に上がる
    • 4):2に戻り、バルーンは常に垂直に戻る

    結論としては新型では風に正対しない為に、「バルーンは流され」「姿勢は乱れ」という悪循環に陥っています。
    旧型ではヘリウムガスによる浮力では劣る物の、「バルーンは風に正対し」「姿勢は微動だにしない」という理想的なバルーンになっています。

    新型と旧型ではバルーン部(銀色の部分)は全長が20cm程度違います。
    直径は同じであることから、尾翼の使い回しを可能にしていました。
    新型では旧型で性能が高いことが確認できている最新の設計コンセプトの尾翼を、そのまま使いました。
    これが最大のミスです。
    旧型である4号機にて最適化されている尾翼は全長が伸びた最新型(5号機)には小さすぎる尾翼だったのです。
    4号機の制作時には限界までの軽量化の一部として尾翼も様々なサイズを試作しています。
    その結果、軽さと風見鶏効果のバランスが最も取れている尾翼を採用しているという流れがありました。
    この尾翼を、寸法は20cmしか変わらないからという理由で、そのまま5号機に移植をしてしまいました。

    実務で、「何となく性能が悪い」と感じていたのは間違いではありませんでした。
    標高2,000mの乱流という、バルーン空撮には過酷な負荷をかけることにより、5号バルーンの欠点を炙り出すことに成功しました。
    今後は5号バルーンの尾翼を最適化という方向も考えられるのですがサイズが一回り小さい4号機の総合性能の方が魅力的です。
    高地でのバルーンサイズアップによる浮力の増強は魅力的ですが長距離移動時に仮眠を取ることも困難になるバルーンのサイズは問題です。

    様々な理由から、バルーンサイズを小さくすることから、2009年の開発目標の一つです。
    今回の5号バルーンは開発を一時停止し、4号を発展させた6号の開発を進める予定です。

    公開日:2009/01/29
    最終更新日:2013/04/03
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