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ドローン空撮[技術解説] - 航空法第二条

航空法第二条

無人機運用に関する法整備準備が進められています。
この新法が将来的にマルチコプター空撮業務にどのような制約が入るかを考えます。

◆はじめに
0 [Zero]は、UAV(無人機)に関する運用技術と法的な知識は少なめです。
2013年現在でUAVを実務投入をされている方が、この分野の正確な情報を掴んでいると思います。
このページでは、今後予想される「法整備・実務・機体の発展・事故」などの観点から、マルチコプターを運用するという想定で未来を考えていきます。

航空法第二条

航空法第二条

この法律において「航空機」とは、人が乗って航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機及び飛行船その他制令で定める航空の用に供することができる器機をいう。
※航空法第二条から抜粋

端的に言うと、「人が乗っているか?」
これが航空機とそれ以外の線引きです。
つまり、マルチコプターは航空機には該当しません。
ウェイポイント(GPSによる自動航行)を用いて1km先に飛ばしても、FPV(画像転送)を用いて有視界飛行範囲以外に入っても、法的には問題無しでした。
低い高度を飛ばすなら、どんなに大きなラジコン飛行機も、人が乗らなければ法的には問題無しです。
重箱の隅ですが・・・
実機をラジコンに改造し、低い高度を飛ばすなら・・・法的にはどうなるのでしょうか?
「人が乗らずに航空の用に供することができる」は、当初は想定されていなかったことを意味します。

なぜ、このタイミングでの法整備なのか?

私の知る限り、無人機による重大な事故は国内で発生していません。
ならば、2013年のタイミングで、何故法整備の検討に入ったのか?
それは、公的機関で本格的なUAV運用の必要性が出てきたことから。
もう少し具体的に言うと、「グローバルホークを導入するから」となります。
UAVに関する法整備の最初期は、「グローバルホーク運用に必要な事柄」を考えれば見えてきます。
主に、高高度を飛行する無人機なので、マルチコプターとは直接は関係がありません。
しかし、低空での偵察に用いるタイプは、マルチコプターと被ります。
さらに、「ついでに民間の低空も決めてしまえ」となるのも想定出来る範囲です。

レベル1:グローバルホーク運用対応

・航空管制指示による進路変更対応
・地上からの制御不能時の自動航行ポリシー
・最低安全高度の設定

この様な法整備があれば、国内運用も理解されると思います。
端的に言うと、「有人機のエリアを飛ぶ無人機」となります。

◆航空管制指示による進路変更対応
ニアミス(空中衝突)は、当然ですが避ける必要があります。
「予定航路を飛ぶのみ」では、ニアミスの危険性を指摘されます。
無人機ですが然る場所にベースを配置し、管制指示により航路の変更が出来る必要性があります。
こことセットとなりますが、運用にはベースに有資格者が必要になります。

◆地上からの制御不能時の自動航行ポリシー
日本運用だからこそ、必要な部分です。
もしも、地上からの制御が困難且つ、自動着陸も出来ないと想定出来る場合。
この場合は、海上方向に自律飛行をおこない強制着水する。
この様な、有事に民家に着陸(墜落)する危険性が低くなるポリシーが必要です。
グローバルホークが民家に「着陸」では、大問題となります。
「地上からの制御が困難且つ、自動着陸も出来ない」なら、海上などにも向かえないという方もいるかと思いますが・・・
その知識レベル方はご退場ください。
GPSなどが無くても、一定水準の位置確保は可能です。

◆最低安全高度の設定
グローバルホークが高度150mなどを飛んでしまうと・・・
建築物との衝突などを想定する必要が出てきます。
グローバルホークは、高高度で運用される機体ですので直接は問題にはなりません。
しかし、規定は必要でしょう。
取りあえずは、既存の航空機と同じなら、問題とはならないでしょう。

ここまでが、最低限定められると推測する法整備です。
今後もマルチコプター運用(ウェイポイント含む)は、一定高度以下なら問題無しとなります。

レベル2:ウェイポイントの事実上の禁止

最低安全高度以下の飛行をどうするか?
航空法第八十一条に記されています。
地上から150m以下の範囲を、マルチコプターでウェイポイントを用いる場合に該当します。(海上を含みます。また都市部などでは300mに設定)
実機が入ってこない範囲で、無人機を飛ばしてもいいのか?が判断のポイントになります。
ここは、民間でのUAV(マルチコプターのウェイポイント運用)の活躍が期待される分野です。

◆賛成という観点から
・河川の管理など、広範囲の監視が容易くなる
・防災にも活用出来る

◆反対という観点から
・小さいといっても墜落すれば死傷者が出る
・河川の管理も防災も、150m以上の高さから運用可能

現段階では・・・
測量系(河川など)と、防災分野は、実機や実機の高さを飛ぶUAVでカバー出来ます。
低空は、規制範囲外としてしまうと、技術レベルの低い安易な参入が増えるだけ。
結果として・・・
・人身事故も発生する
・空撮会社の売り上げも最終的には下がる
一時的には、該当機体の販売や業者(測量屋が片手間で空撮など)を潤すことになるでしょう。
しかし、長期的な発展は望めなくなってしまいます。
ここまでが、個人的な意見です。

実際は、低空での自立航行(ウェイポイント含む)は、規制されないと考えています。
航空管制というレベルでの切り分けは、管理する側からは合理的。
つまり、無人機側に最低安全高度を設定すれば、ホビー用途も含めて棲み分けが可能。
この様になれば、多くの方が一安心となります。

レベル3:有視界飛行の義務

操縦をしていれば、最低安全高度以下も飛行出来るか?
レベル2の、「ウェイポイントの事実上の禁止」が実施された場合の対抗策となります。
「人が操縦していないから危険」というのが、反対派の方々の意見。
ならば・・・無線で人が操縦すれば問題無いですね?という抜け道です。
機体からの映像は必須ではありません。計器飛行でも実現は可能。
極論ですが・・・エンジン機なら数百kmの飛行も結構簡単だったりします。
これを、航空管制エリアに入らない様に飛ばせば、法的には問題無しとなってしまいます。
レベル3を考えるときには、この行為を、「許すか?許さないか?」です。

初期の法整備では、ここは抜け道になると推測しています。
ここを規制してきたなら・・・法整備の担当者の先読み能力は、相当な物と言えるでしょう。
なお、ここを止めると・・・一部のホビーラジコンも飛行禁止になってしまいます。
マルチコプター空撮の分野で問題となるのはFPVを用いたゴルフ場の撮影など。
FPV禁止という意味ではありません。
FPVのみを用いた飛行は問題になるという事です。

「無人機」の線引

この線引きに、「重量」や「機体サイズ」などか含まれる事は無いでしょう。
将来的な技術発展により、十分軽量な機体が永遠に滞空しているという事は2013年現在でも想定出来る未来です。
ハードウェアのサイズで管理していると、その様な革新的な機体を規制出来なくなってしまいます。
線引きのポイントは、人が操縦に関わる「深さ」と推測します。

◆無人機に関する条文にありそうな表現:その1
この法律において「無人航空機」とは、人が乗らずに航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機・・・

航空法第二条の一部に手を入れれば、この様になります。
定義としては、コレで十分かも。

◆無人機に関する条文にありそうな表現:その2
この法律において「無人航空機」とは、自動航行器機が判断し航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機・・・

これになってしまうと、業界はパニックになります。(あえて、「航空の用」には触れません)
自動航行器機の線引きによるところが大きいのですが、ウェイポイントは事実上使えなくなります。
無人旅客機・マルチコプター宅配便などという未来を想定してしまいそう・・・(個人的には、嫌な方向)

◆無人機に関する条文にありそうな表現:その3
この法律において「無人航空機」とは、人が乗らずに航空の用に供することができ且つ目視で運用する、飛行機、回転翼航空機・・・

これが、0 [Zero]の考える本命。
「どのような器機を用いてもいいけど、目視の範囲に限定してね」というパターンです。
目視外なら、無人機法の対象。
目視内なら、無人機法の対象外。
目視内なら、あらゆる研究の可能性が残されてホビー用途は何ら問題無し。
目視外の必要な業務は、許可制で技術の高い物が携わるから安全。
そして、2013年現在の技術の低い者を、狭いフライト範囲に封じ込めることが可能になる。

無人機=人が直接操縦しない
この様な規定が、もっとも単純ですが・・・
これが出ると、上記の、「レベル2:ウェイポイントの事実上の禁止」に該当します。
民間では、この分野の投資も活発。
ここに線を引くと・・・2013年現在でも、十分な混乱が発生してしまいます。
世界では、民間も含めて成長分野となることでしょう。
しかし・・・国内では、技術開発の芽が摘まれてしまう。
当然ですが、この様な事態は避けるはずです。
ホビーや、空撮屋用途に関しては、規制される可能性は十分あります。
しかし、研究機関や特定業務(防犯・防災)では許可制で認めるような気がします。

まとめ

無人機の法整備に関しては、まだ時間が掛かります。
良い意味でも悪い意味でも、時間的な猶予があります。
ただし、法人が事業として携わるなら、「その後」を想定した投資が必要。
もちろん、早期に対策が打てれば、ロスは少なく得る物が多いという状況に持ち込めます。
個人的には、無人機を気軽に飛ばせるという方向には行かないと思っています。
十分な規模の法人が、機材・人材・資金力を豊富に使って特定分野を押さえるという事になるのではと考えています。
※もちろん、0 [Zero]は該当しません。遙かに大きな企業の話です。
0 [Zero]も含めて、空撮部の人員が数人というレベル会社では、有視界の範囲の業務を如何にまとめるかが生き残りの鍵になることでしょう。
10年先には光学器機を用いた自立安定装置は、大いに普及しているハズです。
その時代には、2013年現在の普通の空撮屋は、活躍出来るフィールドを失います。
確かに需要は、大きくなります。
しかし、それ以上に供給が豊富になります。

まだまだ先のことと、この件に関しての考察を先延ばしにすると・・・
その時点の時代の波に乗り遅れることになります。
0 [Zero]でも、UAV運用を想定した規模に会社を向かわせるかの判断を、そろそろしなければいけない時期になってきています。
ずるいですが・・・
法規制の骨格が見えたところで舵取りを決めるのが、小さな空撮会社の実際のところです。

公開日:2013/11/07
最終更新日:2015/01/26
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