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修業時代の話 その1 仕事は盗む物

私は21才から2年半、埼玉の原口工芸という名門の工房で組子職人の修行を行いました。
父が他界してから家業を継ぐことになり、短い期間だけでしたが大変お世話になりました。
(御礼奉公ができませんでした。悔やんでいます)

IT関係などと・・・今はまったく別の世界に生きていますが、修行期間を含む職人時代の経験は
今の私(会社も)を形成するのに非常に大切な時間でした。
ここでは一般で言う「職人」のイメージとかけ離れた一流の組子職人の世界を紹介します。

主に、これから0[Zero]の入社を目指すという方向けのページです。

仕事は盗む物・・・

職人の仕事と言えば、「仕事は見て盗む」と言うイメージがあると思います。
口で言うのは簡単なのですが、なかなか出来ないのが「見て盗む」です。
私も組子職人の修行を始める前は職人は、「そういう世界」だと思っていました。
また、見て盗む事にも自信がありました。

ところが・・・
一流と呼ばれるような所ではこのような甘い考えは通用しません。
少なくとも、私の修業は違いました。

「考えればわかる事・・・」一言でこういうイメージです。

修行に入ってから3ヶ月ほど経ったある日のこと・・・

親方 : これをつくってみろ・・・

示されたのは、今までつくったことのない書院の枠(フレーム)でした。
印籠と呼ばれる上級の収まりです。
組子の知識はそこそこはあったのですが建具の知識は全くといって無かったためにキチンとした返事ができません。
入って3ヶ月。その間は木取り(製材)を中心とした作業ですので内容を聞いてびっくりしています。
割烹料亭に修行に入り、3ヶ月間の皿洗いのあとに「桂剥き(かつらむき)」をやってみろと言われたようなものです。

私 : え~ え~ まだ、教わったことが無いですが・・・(つくっているところも見たこともない)

親方 : イイからつくってみろ! そのまま、どこかに行ってしまいました・・・

本当に、これだけしか話ができませんでした。

普段から、あまり話をされる方では無かったので、「つくれ」という指示を出しただけでどこかに行ってしまいました。
入って3ヶ月ですが仕事の覚えは良かった方です。
先輩の職人さん(先輩といっても年の差は30才以上)が一度見せてくれれば仕事は覚えていました。
だけど今回は・・・
完成品と材料を置いただけで終了です。
どの機械を使うか、どういう調整をするかなど、一切指示がありません。

私は返事すら出来ずに、その場にて・・・

「いくらなんでも、これはムリ。一度でイイから仕事を見せて欲しい」・・・と思ったのですが・・・
親方は怖いので、聞くことも出来ません。(入って3ヶ月ですから)
そこから先は良く覚えていません。
ただ、その仕事は怪我もせず大きなミスもせず終わらせたと言うだけです。

その後も、同様な事が時折ありました。

今ではその時の親方の気持ちと、そんな指示を出した理由がわかってきました。
わかりはじめるまで・・・5年くらいはかかりました。
今でも、完全に理解しているとは呼べないと思っています。

※会社の社員にはこの様な指示は出しません。
ミスは入社2年か、2回までは大目に見ています。

「仕事を盗む」では二流の職人

私は過去の会社の同僚や部下から、仕事の出来具合をこの様なイメージで分類しています。

仕事を見て盗める人・・・ 5%以下
1度指示をしてもらえれば出来る人・・・ 10%
1度はミスをする人・・・ 20%
2度以上ミスする人・・・ 残り

一般的には「仕事を見て盗める人」なら一級品です。
1度はミスをする人でも十分です。

ですが・・・本物の職人は「見なくてもわかる(考えればわかる)」が正解です。

親方が初めての仕事を何も指示を出さずに任せたのは考える力を引き出すためだと今では思っています。
人から何かを与えられるのを待つ様な人間では新しいことは生み出せません。
職人の修行を終えて、社会で揉まれてから、その大切な事に気が付けました。

今では日本で0[Zero](私の会社)でしか制作出来ないなどというコンテンツがたくさん生み出す事ができました。
その考えのスタートは職人時代の親方の考え方でした。

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