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オリンピックで“空飛ぶクルマ”が空を飛ぶ! 大阪・関西万博は大丈夫?

「某自動車サイトのQ&Aと同じ質問にブログもどきが答えます」の番外編となります。

いつもの通り、「あの多田哲哉のクルマQ&A」を答えようと、webCGを覗いていたところ・・・

大矢 アキオさんの、マッキナ あらモーダ!に目が行きました。
マッキナ あらモーダ!では、私がCTOをしていたエアロネクストを取り上げていただいたこともありました。
そして、今回の記事は、私と距離の近い方々が絡んだ話でした。

イレギュラーですが、番外編として書いてみます。

また、本ページは大変珍しい、eVTOLの開発者が書いている預言書という性質もあります。

オリンピックで“空飛ぶクルマ”が空を飛ぶ! 大阪・関西万博は大丈夫?

一進一退
日本では2024年1月10日、“空飛ぶバイク”を開発していたA.L.I.テクノロジーズが、東京地方裁判所から破産手続き開始決定を受けた。いっぽう、その1カ月前の2023年12月には、大阪市内で経済産業省などが“空飛ぶクルマ”の有人飛行による実証実験を行った。eVTOL(電動型垂直離着陸機)の実用化は、一進一退である。

引用元 : 「第843回:オリンピックで“空飛ぶクルマ”が空を飛ぶ! 大阪・関西万博は大丈夫? - webCG」
https://www.webcg.net/articles/-/49621?lid=epu_49621

今回は、私の業界ネタ。
しかも、事件の関係者は良く知っていると・・・

はじめに : 私と、A.L.I. Technologies

A.L.I. Technologiesに関しては、Wikipediaに書かれています。
一行程度ですが、AeroNextとの関係も書かれています。
まずは、一読することをおすすめします。

・A.L.I. TechnologiesのCEOは、小松周平さん
・エアロネクストの創業者であり初代CEOは、小松周平さん
・小松周平さんは、2017年にエアロネクストの役員を退任(在籍期間は数ヶ月)
・私は、エアロネクストの創業者であり、初代CTO(私が退任後はCTO不在)
・私のエアロネクスト役員在籍期間は、2017~2021年

このネタは、色々な意味で慎重に扱う必要がある案件です。
特に、個人に関しては触れませんが、察して下さい。

私の考える“空飛ぶクルマ”

私自身も“空飛ぶクルマ”の開発経験があります。
マルチコプターベースにタンデム翼を備え、キャビンの水平保持機構を備えた機体です。
スケールモデル(飛行可能)が制作されて、飛行動画などもネットで出てくると思います。
なお、CESなどにも展示されています。
大矢 アキオさんも、海外のどこかでエアロネクストを取材したようです。
※私は、隠れキャラなので、めったに表に出ることがありません。

この機体も調べれば出てくるので興味があったら見て欲しいのですが、設計屋として重要なコメントを残します。
これ、発表は2019年ですが、その段階で「空飛ぶゴンドラ」(観覧車)というコンセプトが掲げられています。
“空飛ぶクルマ”では無いんです。
※詳しくはこのページにて述べますが、観覧車としても恒久的には成立しません

理由は簡単な事で、当分は、“空飛ぶクルマ”は成立しません。
それを知っているからこそ、テーマパークで数分程度の飛行をすることを前提に設計がされていました。
世界中の同業他社は、ビルの屋上に設置されたヘリポートから飛び立つCGを発表しますが、これに全面的に否を唱えています。
正し、この傾向はこの頃は変化しています。
それは、ヴォロコプターやイーハンなどに代表される保守的な機体への回帰です。
この流れは、当たり前の事で・・・
「格好いいCGは、基本的に飛びません」
投資家さんも、2019年くらいまでは騙されていたのですが、流石に気が付きましたね。
先進的なCGを出していたドローンベンチャーが次々に手堅い機体にシフトしています。

本題に入りますね。
まず、「100年後にeVTOLと言えば、こう言う形だよね!」とされるデザインは、まだ出現していません。
ホンダのeVTOLの様な、マルチコプターに固定翼が合体したタイプ(広義のクアッドプレーン)は、一定の数が出回ります。
そして、一部の用途には、今のデザインから一部違う形で残ります。
でも、ヴォロコプターの様なドローンを拡大したような機体は有人機としては残りません。
この用途なら信頼性が保証されるシングルローターヘリコプターで良いという結論に至ります。
遠い未来でも、信頼性の観点から遊園地の観覧車に置き換わることはありません。
大阪・関西万博はサポート体制を充実させて特例として飛ばすはずです。
1フライトの原価は、軽く10万円を超えてくるハズです。
機会があったら「お得」なので飛行することをおすすめしておきます。
飛行条件(主として風)も、キチンと管理されると思いますので、旅客機よりも少し劣る程度の墜落率に収まると思います。

eVTOLの種類

以下の表は、「空飛ぶクルマ」= eVTOLの代表的な機体の性能比較です。

評価 備考
従来型ヘリコプター 着陸性能 = ★★★★★
飛行距離 = ★★★
機体価格 = ★★
eVTOL普及後も確実に生き残ります。
100年後も現在の形のままで飛んでいます。
【マルチコプター】
ヴォロコプター
イーハン
着陸性能 = ★★★
飛行距離 = ★
機体価格 = ★★★★★
「ドローン」を大きくした機体。
タクシーの様に普及することはありませんが、観覧車の代わりにはなります。
【クアッドプレーン】
ホンダ
テトラ・アビエーション
着陸性能 = ★★
飛行距離 = ★★★
機体価格 = ★★
マルチコプターに主翼を付けて推進用のプロペラを追加した機体。
一定の性能は出ますが、現状は着陸性能が低いことが課題です。
【ティルトローター】
Joby
スバル
着陸性能 = ★
飛行距離 = ★★★
機体価格 = ★
オスプレイと基本的な考え方は同じです。
電動化により、オスプレイよりも様々な意味で性能は劣化します。
クアッドプレーンと同様に着陸性能が優れません。
【新種eVTOL】
弊社にて開発中
着陸性能 = ★★★
飛行距離 = ★★
機体価格 = ★
クアッドプレーンとティルトローターの着陸性能を改善することを主目的とする機体。
固定翼モード時の抗力と機体価格が問題。

以下は、私が重視する【新種eVTOL】の特徴。
1.着陸性能
2.安全性
3.新規性

以下は、切り捨てている性能。
1.最高速度
2.進歩性(ハイテク)
3.開発コスト

航空機(固定翼)の事故が起こるタイミングは離着陸のタイミングです。
eVTOLでは、タイプ毎にリスクが異なるのですが、基本的には着陸時がもっとも危険なタイミングになります。
離陸時よりも着陸時の方が圧倒的に高くなるのが固定翼機との違いになります。
そして、2024年現在で発表されている全てのeVTOLは、従来型のヘリコプターの着陸性能から大きく劣っています。
これ、皆さんが思っている以上に差があります。
さらに恐ろしいことに、eVTOLの開発者の多くは、この点をキチンと理解していません。

まず、従来型のヘリコプターとマルチコプター(ヴォロコプター)を比較します。
ヘリコプターは、可変ピッチ機構を備えています。
説明が面倒なので、ネットを参照してください。
一方で、マルチコプターは固定ピッチです。

そしてホバリングの推力制御は以下の様にしています。
・ヘリコプター = ビッチコントロール
・マルチコプター = モーター回転数

これ、無風なら構造がシンプルな分はマルチコプターにメリットがあります。
でも、実際の空では、様々な方向から強弱が入り乱れた風が吹きます。
特に問題なのが、上昇気流の発生です。
そして、強い上昇気流が発生しているときに機体の垂直降下をすると以下の様になります。
・ヘリコプター = ビッチを浅くして対応(エンジン回転数は不変)
・マルチコプター = モーター回転数を下げる(構造的に下限の限界がある)

【マルチコプター】の場合は、バランスを取ることにもモーター回転数の差を用います。
故に一定の回転数以下に落とせないという宿命があります。
万博の会場などのように決まった場所の場合は、想定外の上昇気流の発生が予知できます。
でも、実際の活きた環境下では完全に予測することは困難です。
これが、最終的にマルチコプター(ヴォロコプター)が生き残らないとする根拠になります。
なお、マルチコプターにピッチ機構を入れるなどと言う機体もありますが・・・
これ、マルチコプターの最大のメリットである「シンプル」を捨てた機体となり、それならばシングルローターヘリコプターで良いという結論になってしまいます。

次は、【クアッドプレーン】と【ティルトローター】です。
この機体は基本的には、マルチコプターに主翼を付けるという機体です。
巡航時は主翼が発生する揚力を用い、マルチコプターと比較すると長距離飛行を得ます。
この主翼が垂直着陸の際に最大の弱点となります。
主翼に上昇気流が入ると大きな抵抗になります。
ただでも着陸に弱いマルチコプターの弱点がさらに目立つ事になります。
上記で、今のデザインのままでは、【クアッドプレーン】と【ティルトローター】は成り立たないとしています。
この邪魔な主翼をホバリングモード時に正しく処理されている、eVTOLの飛行可能な機体(スケールモデル含む)は2024年現在では存在していません。
※エアロネクスト名義で、この対策は出願済(2024年現在は一部非公開)

そして、【新種eVTOL】です。
【クアッドプレーン】と【ティルトローター】のホバリングモード時の主翼の欠点を補う事を主眼に開発されています。
主翼が付いた段階で、普通ならマルチコプターよりも着陸性能が大幅に劣るのは宿命です。
この悪影響を如何に減らすか?
ここを真剣に考えた結果、最高速度と開発(製造)コストを捨てる事にしました。
もちろん、「高価なら普及しない」というツッコミが入ることは十分承知しています。
でも・・・最終的に普及しない機体に開発コストを投じる正当な理由にはなりません。
この機体の特許が公開されるのは、2027年頃になると予定しています。
※現在は機体の設計中。然るべきタイミングで特許出願してからの公開までを逆算

その出願を見ていただければ・・・
・主翼があっても、着陸性能はある程度は担保できる
・燃費は確実にマルテコプターに勝る
・最高速度は伸びない(400km/hとか無視)
・確かに見たことは無い

1/2~1/8程度のスケールモデルは比較的短時間に開発が出来ます。
制御は完全新規を必要とすることから期間を必要とするのですが、スケールモデルはマニュアル操作で飛行させます。
この機体が形になるのは、2027年前後になると思います。

まだあわてるような時間じゃない

多くの読者もご存じのとおり、2025年に開催が予定されている大阪・関西万博では、その目玉である4つの「未来社会ショーケース」の一企画として、引き続き“空飛ぶクルマ”が位置づけられている。ただし国際的視点に立つと、日本におけるeVTOLの晴れ舞台をかすませてしまいかねない兆しがある……というのが、本稿の趣旨である。
引用元 : 「第843回:オリンピックで“空飛ぶクルマ”が空を飛ぶ! 大阪・関西万博は大丈夫? - webCG」
https://www.webcg.net/articles/-/49621?lid=epu_49621

前置きがあまりにも長かったですが結論から。

eVTOLは、自動車で例えるならT型Fordの出現前。
まだあわてるような時間じゃない。

50年後に大阪・関西万博を振り返ると、「この時のeVTOLはおもちゃだね」と語られる事になります。
eVTOLの完成までの年表に記されても重要な機体ではありません。
とっ言うよりも、これの開発に携わると、後々に恥ずかしい思いをする案件です。
皆さん、安心して緩く見てあげて下さい。

私も開発者としてコメントに責任を持たなければならない事から、Volocopterの具体的な問題点を示します。
・VOLOPORT(ヘリポート)を高層ビルに屋上に設置
・物流機は極端な下重心
・保守的であることは良いことだけど・・・

◆VOLOPORT(ヘリポート)を高層ビルに屋上に設置
何度でも書きますね。
ドローン(固定ピッチ)は上昇気流に極めて弱い飛行体です。
そして、高層ビルは上昇気流の発生が頻繁に発生します。
私は、この手のCGを公開しているベンチャーを基本的にキライます。
なお、エアロネクスト創立前は、バルーン空撮によるマンション眺望撮影のトップブランドでした。
豊洲や西新宿が仕事場で、ビル街での風の吹き方を地上から読むのが仕事でした。
地上から上空の風を読むという点では世界トップを自負しています。
バルーン本体・撮影リグ・専用の車両・10億画素超の画像加工
この全てが完全内製です。

◆物流機は極端な下重心で危険
自動車も重心位置は三次元で考えますよね?
マルチコプターは、自動車以上に高さ方向の重心管理が重要なのですが・・・
VOLOPORTは伝統的に、この点に無頓着です。
特に物流機はペイロードから推測すると極端な下重心機。
ホバリングの無風なら、全てのモーターの負荷は平均化。
でも、巡航に入ると、前後のモーター負荷のバランスは後ろに偏る事になります。
発熱なども後ろに集中することになり、これを墜落原因のひとつに成り得ます。
そして、日々の運用に入ると、後ろのモーターから摩耗していきます。
これもメンテ間隔の観点からは無視して良いことではありません。

なお、エアロネクストの物流機は私が基本設計をしています。
世界的にも類が無い重心位置にペイロードを搭載するという変わり種。
荷物の重量変化により、飛行特性を嫌ってのこと。
ペイロードの有無で機体特性が変化する事を極力さけて、巡航時の抗力を低コストで狙ったという独自の機体になっています。
この物流機の専門家としてコメントを残します。
「Volocopterのマルチコプターの理解は10年遅れている」

◆保守的であることは良いことだけど・・・
ここでは褒めます。
まず、「飛行出来る事」
これはCGのみのベンチャーと比較すると遙かに優れています。
そして、過去にCGモデルのみ公開などの黒歴史が無い事も好印象です。
最初期から保守的である事は、ある時点までは正しい手法です。
でも・・・
開発コストが集まったなら、本命のカードを切らないと・・・
そうです。Volocopterにはこの本命機体というのが用意されていません。
今のマルチコプター式が彼らの全てで有り、上記したとおりマルチコプタータイプのeVTOLは最終的に退場になります。
然るべき後に、Volocopterが衰退した理由を語られる際には、「次の機体が出てこなかった」と言われることになります。

コラム : モーターの数が多い理由

ここでは電気自動車にも参考になる話として、あまり語られないモーターの燃費(電費)のことを書いてみます。
まず、eVTOLは、撮影用のドローンと比較するとモーターの数は多くなります。
理由はモーターの大きさと燃費の関係から。
・モーターは磁力を用いる
・磁力は距離で減衰する
そして、
・電線に電流が流れると発熱する
・モーターの温度が上がりすぎると壊れる

これが、一定サイズ以上にモーターを大きくしても効率が落ちる原因です。
理想的には、一つのモーターが受け持つ加重は5kg以下としたい。
※1時間ホバリングするドローンとかは、このパターン

なお、オスプレイが2個のプロペラであるのはエンジン機だから。
この場合は、個数が少ない方が燃費が伸びます。

Volocopterは・・・
・重量700kg
・モーター数は18個
・受け持ち加重は38.8kg/1個

設計屋的には許されるなら、数倍の量のモーターを詰みたいところですが、機体サイズから縛りは入る。
スタック(上下に並べる)やオフセットである程度の効率を保ちつつも密度を上げる事は出来るが、これはどこに知財が埋もれているかが想定出来無い。
故に、超保守的な設計を万博機では採用していると言えます。
もしも、多少革新的な機体となっていた場合は・・・
知財を持っている企業から万博直前に差し止め請求が入るなどという事もあり得ます。
あくまで個人的な見解ですが、Volocopterは他社の知財を犯していることは無いでしょう。
それほどに保守的(つまらない)機体です。

燃費の観点からはモーターの数は増やしたい。
メンテや巡航時の抗力の観点からは減らしたい。
全てのeVTOLは着陸時を短時間で終わらせる必要がある。
100年後に残るeVTOLのデザインは、モーター特性を理解しつつ、補助機構で上手に補った機体になります。
eVTOLの設計屋に求められる能力は、関連する全ての知識です。
これ、初期の自動車開発に非常に似ていて、名車の誕生には名を残す設計者の存在があります。
そして、eVTOLの世界では、この名を残す設計者が不在であると・・・

某自動車サイトのQ&Aと同じ質問に答えてみる

◆番外編
オリンピックで“空飛ぶクルマ”が空を飛ぶ! 大阪・関西万博は大丈夫?

◆第2期
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