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ドローン空撮[技術解説] - DJI Wookong-Mの暴走原因の特定完了

DJI Wookong-Mの暴走原因の特定完了

2012年夏のマルチコプター墜落から検証を重ねていたDJI Wookong-M起因のトラブル原因がほぼ特定されました。
結論からお伝えすると、業務用の特定無線器機により、DJI Wookong-Mは事故を起こす可能性が高い。
この様な結論に至りました。

注意:
ラジコンの飛行場(河川敷など)では問題は発生しません。
通常のWi-Fiとの混信も確認されていません。
トラブルは特定の無線器機(合法。一部Wi-Fi有り)が用いられているプロの撮影現場。
一般ユーザーの方は今後も安心してWookong-Mをご利用ください。

ただし、DJI Wookong-Mを業務として用いる方は注意が必要です。
テレビカメラ(A帯)が入る現場で撮影を行う方は早急に「必要なテストや対策を実施」し、その結果の公開などをお願いします。
弊社も対策方法の検討の一環として、他社の考え方には注目しています。
弊社が経験した限りはこの問題は極めて深刻です。

2014年9月1日加筆:
このページの公開から1年半の実務経験を積んでいます。
現在では、混信は全く無くなりました。
このページ内にも記していますが、S-BUSとノイズ対策のどちらか(もしくは、どちらも)が有効に働いていると思われます。
また、フライト前の周囲の高周波・低周波のチェックとパイロットの経験値が上がっていることも見逃せません。
どちらにしても、2014年9月現在は、妨害電波に現場にて悩まされるという現象は皆無となりました。
このへージは残しますが、現在は、「対策可能」というポリシーとなっています。

特定までの経緯

具体的な業務内容が特定出来ないように、詳細な情報の公開を控えさせて頂きます。
※実際に発注を検討されている方に関しては守秘義務に反しない範囲で情報は開示させて頂きます。

2012年2月の業務開始から原因が特定されるまでの主要な業務を抜粋。
墜落事故を起こしているD案件は2012年夏。
特定に至る、I-2案件は2012年初冬となります。

撮影案件 混信 A帯 その他の器機 送信機 備考
A案件
イベント系
無し 有り 有り JR・DMSS 延べ20フライト以上。
現在ほど経験を積んでいないことから各種現象の記録無し。(軽微な混信の可能性有り)
B案件
テレビ番組系
無し 有り 有り JR・DMSS 延べ10フライト以内。
現場にてインカム使用(混信無し。自身もインカム使用)
C案件
イベント系
有り 有り 有り JR・DMSS 延べ20フライト以上。
致命的と表現できる暴走現象確認。
ワイヤレスマイク以外の混信器機を具体的に複数特定(合法・非合法のどちらも該当)
D案件
テレビ番組系
有り 有り 不明 JR・DMSS 実務1フライト目に暴走発生(前日のロケハンでは問題無し)
暴走後に上空にてプロペラ停止。
詳細ページ
E案件
テレビ番組系
無し 無し 有り FUTABA
FASST
延べ20フライト以上。
現場にてインカム使用確認(混信無し)
この案件以降は送信機メーカーの変更とノイズ対策実施。
F案件
テレビ番組系
有り 有り 無し FUTABA
FASST
A帯未使用の場合は混信無し。
A帯使用にて、混信を確認。
G案件
企業PV
無し 無し 有り FUTABA
FASST
都市部の住宅地での撮影案件。
天候は晴れ。無風。
H案件
テレビ番組系
無し 無し 有り FUTABA
FASST
延べ20フライト以上。
現場にてインカム使用確認(混信無し)
I-1案件
企業PV
ロケハン
無し 無し 有り FUTABA
FASST
都市部の住宅地での撮影案件。
天候は晴れ。無風。
I-2案件
企業PV
本番当日
有り 有り 無し FUTABA
FASST
ロケハンとは別日(数日後)。
天候は曇り時々晴れ。最大瞬間風速8m/s。
A帯使用にて、混信を確認。
J案件
テレビ番組系
無し 無し 無し FUTABA
FASST
延べ3フライト。
GTOスペシャル撮影本番

F案件:送信機変更後初の混信

D案件の暴走後に送信機メーカーを変更。同時に独自のノイズ対策を実施。
送信機変更後にF案件にて、混信現象を確認(ジンバルサーボの暴走=フライト自粛)
このロケ地は人里離れた場所であることから症状固定が容易に可能でした。
現場にはA帯以外には業務用無線器機は無し(確認済み)
しかし、wi-fiなどを含む個人レベルの管理が出来ない無線器機は複数存在。
原因をA帯固定までは出来ませんでした。(業務の流れから、検証の時間が確保出来なかったことから)

I案件:混信原因のひとつを特定完了

撮影場所は都内の住宅街。
本番の数日前に、フライトを含むロケハン実施。
ロケハン時には問題が無かった場所にて混信発生。
ロケハン時との違いは天候とA帯の有無のみ。
他の業務用無線器機が無い現場であったことから、A帯との混信の可能性が極めて高いとの推測が出来ました。
混信は電源投入後10秒程度継続。
混信元と思われるA帯のワイヤレスマイクは演者と共に移動(止まっていても条件が動く)していることから、以降の再現性は無し。

A帯を混信原因のひとつと考えます

2012年夏のマルチコプター墜落以降にも無数の実務を経験しています。
スチール撮影の現場では一切の混信無し。
高速道路SAや都市部での撮影など多数の実務をこなしていますが一切の混信が確認出来ていません。
スチールと動画撮影の違いは搭載するカメラの機種のみ。
可能性は低いと思われますが搭載するカメラとの相性という可能性も残します。
テレビ関係の撮影でも、A帯を用いないドラマ撮影などでは問題無し。
通常のテストフライト(ラジコン飛行場・事務所)でも、問題無し。
問題を起こした現場はハンディを用いた屋外ロケ系のテレビ番組(F案件)と、A帯を使用しているI-2案件。
どちらも、少ない機材・スタッフ数にもかかわらずA帯を用いていると言う点で共通点がありました。
混信の例としては2例しかありませんが同一条件であることから「DJI Wookong-MはA帯のワイヤレスマイクと混信する可能性が高い」と判定しました。
まだ、2例のみの混信実例ですので、完全な確定には至っていません。
非常に疑わしいというのが現在の状況です。
今後の業務ではA帯が用いられる場合は事前の申請が必須とポリシーを改めます。

検証の参考として、以下のスペックを公開します。
・フライトコントローラー:DJI Wookong-M 2011年暮れに購入
・送信機:FUTABA 8FG super
・受信機:FUTABA R6208SB
・ジンバル制御:Wookong-Mにより2サーボ制御(電源供給はWookong-Mから)
・フレーム:0 [Zero]オリジナル(カーボン・マグネシウム・アルミ)
・搭載カメラ:SONY cyber-shot DSC-HX30V

※DJI代理店等の方、問題があるならこちらから

未対策機と対策機の具体的な現象の違い

ノイズ対策実施機体

2012年夏のマルチコプター墜落以降に用いている機体はS.BUSの採用と幾つかのノイズ対策が施されています。
実務にて、具体的な混信が確認出来ていますがフライト中の暴走は一例もありません。
混信の具体的な現象は電源投入直後のジンバルサーボの暴走により確認。
その様な場合はフライトを自粛しています。

対策前と対策後では混信の傾向に大きな変化がありました。
対策前:電源投入時に問題無くても、フライト中に混信が入る。
対策後:フライト中に強い混信には入らない。

2012年夏のマルチコプター墜落の際にも、フライトから数分間は混信無し。
混信元の送波開始と同時に暴走開始。
重大事故に発展する可能性が十分ありました。

今後に関して

混信対策の決め手が0 [Zero]の中でも固まっていません。
有効対策の候補は以下の二つ。
・S.BUS
・独自ノイズ対策

どの対策が有効なのかは今後探さなければならないところです。
取りあえずは独自のノイズ対策は継続のままでS.BUSの使用を続けます。
過去の混信例でも、再現性が無いことから特定までには時間を必要とすると予測します。

ノイズ対策例 注意:
S.BUSは用いていますが対策として有効かどうかの特定は出来ていません。
上の写真でもGPSと各種ユニットへの輻射波対策が見て取れるかと思います。
←今回のA帯特定が出来たのは写真とは別の機体。
※ジャイロが傾いている様に見えるのは上部のカーボンが斜めの設計の為(バッテリーを上斜めに搭載)
こちらにはジャイロを搭載しているユニットボックスにノイズ対策が施されています。
しかし・・・輻射波対策は上面には施されていない。
これ以外にも、GPSアンテナの搭載方法やラインへのノイズ対策など・・・
ノウハウに該当する部分なので、核心には触れませんが通常のユーザー(空撮のプロ)が施さない、あらゆる対策を試しています。
「0 [Zero]がS.BUSを用いているから、S.BUSなら安心」と思うのは早計です。
確かにS.BUSが有効である可能性はある。
0 [Zero]でも、当分はS.BUSを標準としてWookong_Mと向き合います。
しかし・・・S.BUSを搭載し、特定のノイズ対策をしても混信が出たという事実があります。
今のところはフライト途中に混信という事態にはなっていませんが気を抜けない状態が続きます。

検証が甘くないのか?

そのご指摘はもっともです。

Wookong_Mは5セットを購入しています。
今回のF案件とI-2案件は同じユニットにて現象が出ています。
I-2案件の現場では再現性を狙って現場で粘ったのですが・・・
現象が一回出てからは再現がありませんでした。(初回の混信時にはフライト自粛)

実は個体毎に混信時の動きが違う事はD案件以前に把握していました。
混信を起因とする暴走時には特定の舵に特定の量の狂いが入ります。
それは混信状態になると、同じ量の同じ方向に入るのです。
これが個体により違うのです。
導入当初は電源投入時のトリムズレが無視できない頻度でありました。
この狂いと、方向は一致していました。
初期のページで、「Wookong-Mの選別」という表記があるのですがこの狂いの量が少ないのを選別していました。
結果として・・・混信時の暴走の率が少ない個体にて実務をしていたこととなります。

混信がWookong-Mの瑕疵なのか、特定の機体の故障なのかは確定出来ない状況です。
0 [Zero]はWookong-Mの選別が業務では無いことから、これ以上の検証は出来ないのが実情です。
本来なら、より多くのWookong-Mを様々な現場に連れ出し、問題を特定する・・・
これは0 [Zero]の仕事では無く、DJIの仕事と考えていますが・・・いかがでしょうか?

なぜ、公開に踏み切ったか?

このページでは特定メーカーの具体的な製品の名前を出しています。
国内の空撮会社で、シュアがもっともあるDJI製品です。
販売店やユーザー(空撮会社)には非常に都合の悪い情報かと思います。
公開を行ったのは、「同業他社が重大な事故を起こさない為」です。

なぜ、他社は問題にしないのか?
実務現場

趣味でマルチコプターをフライトさせている方の周囲には至近距離のA帯が存在しません。
業務で撮影されていても、A帯が無ければ混信の可能性は低い(無しでは無い)と言えます。
0 [Zero]が具体的な混信に悩まされたのは独特のスタイルにあると推測されます。
・イベント会場でのフライト(現在は自粛)
・耐規模な撮影現場(ドラマ撮影など)
・人物への寄り

A帯混信が出やすい条件が0 [Zero]の実務では多かったと言えるのだと思います。
怖いのは十分な混信の経験をしていない方がこの様な現場に出てくること。
重量級で、暴走と言うのは・・・怖すぎます。

公開日:2012/12/10
最終更新日:2014/09/01
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