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ドローン空撮[技術解説] - 墜落原因の報告義務について

墜落原因の報告義務について

2014年11月3日発生の、「第9回湘南国際マラソン」にてのマルチコプター人身事故。
この事故を受けての啓発活動コンテンツの第九弾。
マルチコプター墜落事故の報告義務に関して。

はじめに

まずは、以下の事実から。

大会主催者・空撮会社(機体を国内代理店から購入という前提)には、報告義務が無い。
今回の件で報告義務が発生するのは、墜落機体の製造者・輸入業者が該当。
※消安法第35条第1項

2014年11月21日に、湘南国際マラソン事務局から以下のお知らせが出ています。

空撮業務を行った㈱フライトエディットに対し、事故の検証・報告を求め、事故原因を特定すべく現在も調査を進めております。
原因が特定されましたら、後日改めて大会ホームページにてご報告いたします。
事故再発防止策として、空撮機器の安全運用が確認できるまで、大会開催中の空撮を中止いたします。
[引用:第9回 湘南国際マラソン 事務局からのお知らせ 2014.11.21 空撮用マルチコプター墜落事故について ]

今回の事故に関しては、大会主催者も空撮会社も報告義務がありません。
上記のお知らせは、大会事務局からの自発的な動きです。
危機管理という観点からは褒められる?と感じると思いますが・・・
これは悪手です。
以下で詳しく述べていきます。

事故後に墜落原因を公にするという道筋を引いた

大会主催者からの発表は、今後のマルチコプター空撮業界に与える影響が大きい内容です。
今回の事故は、国内で認知された最初の人身事故。
今後の事故の再に今回のケースがたたき台となります。
「原因が特定されましたら、後日改めて大会ホームページにてご報告いたします」
[引用:第9回 湘南国際マラソン 事務局からのお知らせ 2014.11.21 空撮用マルチコプター墜落事故について ]

これにより報告義務を発生させました。
今後の人身事故では、主催者などの発注元が墜落原因を示した方が良いというひとつの指針となります。
そして、「空撮機器の安全運用が確認できるまで、大会開催中の空撮を中止」
[引用:第9回 湘南国際マラソン 事務局からのお知らせ 2014.11.21 空撮用マルチコプター墜落事故について ]

という一文で、他のイベント空撮に大きな影響を与えました。
原因が特定出来なければ、安全運用が出来ない。
大会ホームページで原因が公開されなれば、事故原因を特定出来なかったことを意味します。
湘南国際マラソンのみで完結すれば問題はありません。
でも・・・他のマラソン大会やイベントなどではどうなのでしょうか?
参加者が指摘すれば、「安全だから大丈夫」と言い切れない時代に入ったことは確かなのです。
マルチコプターが危険という証明は簡単。
湘南国際マラソンでの事実や、海外の事故事例を示せば良いだけです。
業務中に一般の方から指摘されれば逃れることは出来ません。
主催者側からは痛くもかゆくも無いのかも知れませんが・・・
0 [Zero]も含めて、多くの小さな空撮会社に有形無形の影響が出ています。

2014.11.21の湘南国際マラソン 事務局からのお知らせを出すべきではありませんでした。
理由はただひとつ。
「原因は最終的に特定とならないから」
このお知らせは、墜落原因が後日示されるという前提にて書かれています。
最終的に原因究明が出来ないと言うオチが想定されいません。
この判断をされた方の危機管理能力が低いと言い切ります。
技術解説で何度か取り上げていますが、以下のページをご覧下さい。
97) リポバッテリー内部検査の理由
B787のバッテリー問題は、必要な人員やコストを投入しても解決しなかったのです。
この事例から小さな空撮会社が事故原因を究明出来ないことを推測出来ます。
誰もが納得出来る墜落原因レポートは、該当する会社以外が制作するしかありません。
然るべき研究室とかメーカーしか無いでしょう。

最後にどのようなオチをつけるのでしょうか?

事故原因の発表は注目されている

2014.11.21のお知らせから一ヶ月半が経過しています。
この段階で事故原因は公式ホームページに出ていません。
ここで出される内容を受けて弊社も含めて、多くの空撮会社が準備と対策をする事になります。
注目されているので、いい加減な公開は出来ない事でしょう。
※少なくとも、0 [Zero]は怒ります。
小さな空撮会社である、0 [Zero]のサイトですら、この分量のページを既に9ページも公開しています。
事故原因と対策という目的は決まっているので、ここまでの量は入らないとしても・・・
1~2ページ程度の報告書を同業者(迷惑を被った者)としては期待します。

がんばってください。

輸入代理店は報告義務がある

興味がある方は、消費生活用製品安全法第35条を調べて見て下さい。
今回の事故は、該当機体を輸入した者に報告義務が発生していると読み取れます。
適切に然るべきところに報告されたと期待します。

中締め

既に年が改まりました。
ひとまずは、公式ホームページの発表待ちとして啓発コンテンツを一旦終了します。
次は、公式発表の内容を踏まえての解説になるかと思います。

コラム:マルチコプター空撮事業は赤字

以下を読み進める前に、2014/11/06に公開された以下のページを熟読頂けると幸いです。

技術解説:111) 湘南国際マラソン墜落事故を考える

0 [Zero]では、この段階で第三者が撮影した墜落時の映像から墜落原因を特定しています。
十分なテストと備えをしている者からすると即答出来る墜落原因です。
事故機体が適切に保存されているなら、再現性も高いと言い切ります。
墜落姿勢から、電波障害・ジャミング・操作ミスなど、ありがちな退路を潰しています。
該当ページは、関係各所も閲覧したと思われるので、この日以降は上記の言い訳は出来ないと推測出来ます。
そこで、本来の原因であるバッテリー劣化の証明となるのですが・・・
以下のページの解析を実施する事になります。
技術解説:115) マルチコプター墜落原因の解析について
この様な事が出来る空撮会社なら、0 [Zero]と同様に動力バッテリーの潜在的なリスク対策を事前にしていると思われます。
具体的には、以下の様な準備です。

54) リチウムポリマーバッテリーの短絡テスト
83) マルチコプター空撮機材車
88) リポバッテリー充電ステーション設計中
110) 雨とリチウムポリマーバッテリー

バッテリーを冷やして、暖めて、燃やして濡らす。
安定性確保を狙い、新車の車両すら総バラシで断熱材の施工。
何を言いたいかと言うと・・・
「安全を保証するには、ここまでの手間とコストが必要」
と言う事です。
同業者のサイトを拝見すると、「高い技術」「豊富な経験」「この道○○年」などというフレーズが踊ります。
マルチコプターは、実用になって数年という未開の地です。
レシプロエンジンの知識も、自称プロの業務年数も無意味という世界なのです。
見えない事が多すぎる世界なので、噂の全てを自身で検証して血肉としなければならない段階なのです。
知識は、広く深く必要。
機械・電気・制御に関する知識は基本。
空撮会社の運営には、法律から時代の読み方、などスペックとして示しにくい内容に渡ります。
その上で、他人の命を担保とする空撮業が成り立つのです。
良く、「人から離れてれば安全」という書き込みを見受けます。
これは、大きな間違い。
マルチコプターは、バッテリーの続く範囲全てを墜落想定範囲と考える必要がある危険なラジコンです。
これは、GPS非搭載の従来型ラジコンヘリとの大きな違いです。
GPSを用いる事により操縦は容易になりました。
同時に、GPSをハッキングされることにより、無制限の暴走という想定が必要になったのです。
後出しじゃんけんは、ズルイので以下を示します。

38) マルチコプターに関する特許出願の内容

特許の出願は2011年。
その時点でGPSハッキングを想定しているという明確な証拠です。

この様に、必要な準備を重ねた上でもマダマダです。
0 [Zero]の2015年1月の段階の技術では、バッテリー起因の墜落の可能性を限りなくゼロまで下げられています。
ポリシーにも記していますが、人物直上からの撮影に公式に対応しています。

ここでもう一度、同業者に問いかけます。
「他人の命を担保にしているという意識はありますか?」
これも繰り返し述べている事ですが、軽量機体(ファントム)での業務空撮は大いに結構だと思います。
軽さは正義。
これは不変の法則です。
ファントムにて、常識の範囲内でフライトさせていれば、他人の命までは奪うことは無いでしょう。
いつかは、実機と同等レベルの安全率と言える機体が出てくる事でしょう。
それまでは、軽い機体を用いるか、暴走しても他人の命を担保にしないフライト計画をするしか無いのです。
もちろん、覚悟が出来ているパイロットと演者による映画撮影などは、プロとしてアリです。
もちろん・・・ 最悪は、死亡事故も有り得ることを演者さんの目を見て話す必要があります。

悲しいことなのですが・・・
必要なリスクを明示したり、必要なテストを繰り返している業者ほど競争力が無いのです。
同じ様な機材を用いて、金額が高い見積が示されるなら、その業者は選ばれない時代です。
ハッキリ言いますと・・・
0 [Zero]のマルチコプター空撮事業は、2011年の参入時からの累積赤字です。
撮影費用は、他社よりも少し高い程度。
開発費と消耗品費は、他社と桁が違います。
故に赤字です。(会社全体では黒字。利益は、バルーン空撮で出しています)
ならば、泣き寝入りかというと・・・
それも違うのですね。
0 [Zero]の様な技術主導の会社だから選べる選択肢が別に用意されています。

これにて、湘南国際マラソン大会の墜落関係のページを一旦終了。
次回以降の技術解説では、コスト(利益)重視の空撮会社に突きつける0 [Zero]のひとつの答えを示していきます。
2015年もマルチコプター空撮部門の黒字転換の予定はありません。
恐らく、2016年でもダメでしょうね。
これが技術主導の会社の経営の実態です。

公開日:2015/01/06
最終更新日:2015/01/06
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