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ドローン空撮[技術解説] - リチウムポリマーバッテリーの短絡テスト

GTOスペシャルのワーク解説
リポバッテリーケースの耐火金庫

耐火金庫の耐久テスト

2013年1月14日の大雪の翌日。
この日に、バッテリー保管庫として用いている耐火金庫の耐久テストを実施することにしました。
本数にして20本。重量4kg。
この爆薬と呼べそうな容量を一度に発火させるという過激なテスト内容。
そのため、周囲への危険性を下げる観点から降雪を待っていました。

マルチコプターの開発当初から耐火金庫をバッテリーケースとして利用していました。
2つの金庫を業務では持ち歩き、一つは充電前。一つは充電後という使い分けをしています。
耐火金庫を用いていたのは以下の理由から。

・温度変化が緩やか
・万が一の時でも安心(ここが今回の確認のポイント)

フェリー移動などの際には客室にバッテリーは持ち込んでいました。
飛行機での移動などの際も手荷物として機内に持ち込むことになるのですが「それは本当に安全なのか?」と問われても明確に答える根拠がありませんでした。
この日のテストでは想定出来る最大の悪条件下で事故(短絡)が発生したという想定です。
良くあるような、「使えなくなったリポ1本を燃やす」などという甘いテストではありません。
実用バッテリーを20本満充電にして発火させる。
これで、耐火金庫が耐えきったなら、手荷物として機内持ち込みの根拠が出来ます。(実際は充電残量を減らすことからさらに安全)
ポイントと睨んでしたのは発火後の金庫の温度変化。
200°を超える様な温度に達するなら、フェリーの車内に残せ無い事を意味します。
もしも、66°以下なら・・・24時間に渡るフェリー移動などの際にも車内にバッテリーケースを残せます。

一線級を退く事となった30本のリチウムポリマーバッテリーと、新品の耐火金庫を用意してテストに臨みます。

テストバッテリ

テストNO1:テストの目的が変わる

←最初に、発火に慣れるという観点から実務を引退したパックにより延焼テストを実施しました。
ラベルからは2012年2月購入。
この時にB級という評価がされているパックです。

このページ最上部のYouTube動画のテストNo1に該当するのですが・・・
炎と呼べる様な物は一切出てきません。
膨らんだパックが弾けて、煙がモクモクと出てくるのみ。
予想では短絡の数秒後には発火。
それがどの程度の規模と時間となるのかが観察のポイントでした。
この様な事は偶然かと思い、その後も同スペックのバッテリーでテストを繰り返しましたが結果は動きません。

テストバッテリ全容

結論から

全部で9本のバッテリーにて短絡テストを実施。
結論としては「炎を出すことは一例もありませんでした」
バッテリーの設計時に短絡は明らかに想定されています。
少なくとも、0 [Zero]が2013年1月現在で使っているバッテリーで短絡により炎を出すバッテリーは一本もありません。
ネット上には色々な情報がありますがこの日から私の認識はかわりました。

注意:
以下で詳しく述べていきますがバッテリーのメーカー・容量・ロット・搭載方法・外気温。
様々な条件で、結果は自ずと異なってきます。
このページの都合の良いところに着目し、「最新のリポは安全だ~」などという勘違いをしないで下さい。
0 [Zero]と、まったく同一(品番・ロット)を揃えても機体への搭載方法を誤ると、この限りではありません。
具体的には・・・パックが弾けるのを阻害するような方法です。
この場合はヒューズが働くのが遅れ(場合によっては働かず)、火災という状態になる事も予想されます。
特に、プロの方はご自身の環境でテストを行い、その公開をお願いします。

特に、「弾ける」タイプのリポにもかかわらず、機体にマジクロス(ベログロ)付きのバンドで固定している機体をよく見掛けます。
飛行中の脱落に配慮していると思われるのですがこれらは搭載方法に問題があるということが今回のテストで具体的に証明出来ます。
マジクロスの接着力は引っ張り方向も剪断方向も十分な強度があります。
リポの固定には1面対応でも十分です。

弾けたリポバッテリ

3S2600mAh:パックは必ず弾ける

手持ちの3S2600mAhと3S3300mAhは同じ現象が出ました。
短絡後に、パックは膨らみはめて、一定の大きさで弾けます。
この弾けたときに、断線することにより反応は収まります。
弾けるときの反応の進み具合により、その後の数十秒の動きが多少異なります。
ポイントは弾けた事により反応が収まること。

この1年間のメインであった3S2600mAhは4本テストに投入。
この容量以外の反応を見る為に、保管中(1年前に購入)の3S3300mAhでもテスト。
同様の現象を確認しています。

次期主力バッテリ

3S1800(メインバッテリ):内部のヒューズが働く

実務投入前の、軽量バッテリーも同様にテスト。
こちらは、「プチッ」と言う音と共に内部で断線。
同一メーカーの、1800mAhと2200mAhにてテスト実施。
サンダーパワーの3S2100mAhも同様に実施。
全て内部にて断線を確認。

←短絡テストに用いたのはロット違いのバッテリー(2012年10月ロット)
先日のバッテリー買い出しでは2012年11月のロットでまとめる事に注力。
ショップ巡りの際に、ロット違いと判明したバッテリーをテストに用いました。

次期主力バッテリ
バッテリーは室温にて保管

テストは雪上で行われていることから、能力低下を心配される方もいると思いますので補足します。
今回のバッテリーは常に室温にて管理されています。
2200mAhや、3300mAhは仕事では使っていません。(故に、赤いパックのまま)
ストレージモードにて、この場所に置かれていました。
なお、保管している事務所は夏場でもエアコンを止めません。
バルーン空撮に用いる材料などにも、高温により耐久性が落ちる特性の材料があることからの配慮です。
鮮度は落ちていますが使えるバッテリーである事は間違いあません。

次期主力バッテリ
3S2600mAh:興味深いセル

今回のテストでは3s2600mAh以上のパックは全て「弾けて」います。
その中で興味深いのがこのパック。
左と中のパックは膨らんでいる。
しかし・・・右は異常なし。
左と中のパックに通電させるには必ず右のパックを通る。
つまり・・・弾ける=数秒は短絡していた。
この様な場合はどのパックも等しく膨らんで良いハズ。

この写真のパックは初期の選別時の充放電テストはクリアしています。
ハンダの目視検査ではA級と評価されていたパックです。
しかし・・・何かがおかしい。

実は・・・実務中に明らかな性能低下を感じ、昨年の6月頃に実務を引退させていました。
その後はストレージにて社内保管。
このテストで思い出したように連れ出してきたパックです。

意味不明の印

注意深く分解を進めると・・・
ご覧の様なマークが該当するセルに付けられていました。
これが何を意味するのかは不明ですが・・・
短絡時に、このパックは仕事をしていなかったことは明確です。

これを不審に感じたことから、全てのテスト済みバッテリーをこのレベルまで分解しました。
その結果・・・この様な印がついているのはこのパックのみ。
このセルの内側に印が入っていることから、過去の内部検査でも判明する事はありませんでした。
性能低下との関連性は不明です。

3S1800mAh:これは設計なのか?
小型リポのヒューズ

パックが弾けない方は短絡と共に「プチッ」と内部から音がします。
切れているのはこの場所でした。
この日にテストした2200mAh以下のバッテリーは全て内部の同じ所が切れています。
つまり・・・
短絡による過電流によりヒューズが働いたと推測出来ます。
この設計を裏付けるように、小型のパックは各セルを止めている両面テープなどにも違いがあります。
小さい物:パックの形状を崩さないように
大きい物:パックを積極的に弾けさせるように
小型のリポパックは短時間の短絡でも非常に危険な状態になると、ここからも推測出来ます。
仮に、ヒューズが働いた後に、偶然元に戻った・・・
この様な個体はフライト中に突然死に至る事が容易に想像出来ます。
また、物理的に動く事により想定外のパックのズレを嫌う。
故に小型のリポパックの両面テープは多め。
この様に読み取れました。

リポのペアリング

3S2600mAHと3S1800mAhを比較すると、小型である3S1800mAhのパックが慎重にされている事は気がついていました。

←それ故に、過剰と思われるグラステープの切除による軽量化などもしていました。
今回のテストで、小型のパックがガチガチに固められている理由が判明しました。
この様な小型のパックは短絡など以外にも、運用時に必要な配慮が別にもあります。
配線の不必要なテンションは激禁。
パック側はそれを想定して弾けるタイプのパックよりも厳重にパックが固められています。

「弾けるリポ」と、「ヒューズが働くリポ」の短絡テスト後を内部まで観察すると、設計の明確な違いがわかります。
特に「ヒューズが働くリポ」=小型の信頼性が高いと推測出来る点。
同様量のバッテリーを用意するには
「弾けるリポ」(大型)×2個 よりも 「ヒューズが働くリポ」(小型)×4個
この後者がプロの機材として優れる(墜落時にも煙を出さない)と考えます。
0 [Zero]も将来的には採用するDSLR搭載機も、小型リポ×8個などという特異な機体を投入するかもしれません。

まとめ

元々は耐火金庫のテストだったのですが・・・
当然ですが金庫を用いたテストは未実施となりました。

当初の想像よりも、現在販売されているリポが安全である事も学習。
今後の実務に、今日の結果を反映させていきます。
また、テスト後のバッテリー内部を観察することにより、新たな発見(ノウハウ)もありました。
短絡時の動作の違い(弾く・ヒューズ)により、バッテリーの搭載方法も考える必要がある。
特に、大型(3S2600mAh以上)はボックス形状の中にしまったりバンドで巻く事は怖いと感じました。
大型は過電流でも内部のヒューズが働かない。
弾けることが出来なければ、短絡していても通電は維持される・・・

0 [Zero]に当てはめると、耐火金庫に大型を収納する際には、「弾けるスペースを確保すること」
ここに気を付ける必要があります。
しかし・・・
1800mAhにヒューズがある事に気がつけたので、今後の軽量機体は1800mAhパックで構成します。
将来的にDSLRなどを設計する際には、「弾けること」に着目した機体設計が必要であると感じています。
墜落時に、短絡して炎まで上がってしまうのは避けたいところ。
その様なときには速やかにパックを弾けさせて軽度な煙の発生で留めるのが狙いの機体・・・
数年先なので、その時には最新パックのテストも必要ですね。

公開日:2013/01/15
最終更新日:2013/01/18
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