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ドローン空撮[技術解説] - マルチコプターが旅客機を墜落させる

マルチコプターが旅客機を墜落させる

2014年11月3日発生の、「第9回湘南国際マラソン」にてのマルチコプター人身事故。
この事故を受けての啓発活動コンテンツの第六弾。
マルチコプター空撮屋が起因する旅客機墜落事故の可能性に関して。

はじめに

まずは、以下の事実から。

リチウム系バッテリーの発火起因と推測出来る貨物機墜落事故が発生している。
偶然が重なれば、空撮屋が機内に持ち込むリポバッテリー起因の墜落事故は想定出来る。
これが現実です。

マルチコプターの動力バッテリーとしてリチウムポリマー二次電池(以降、リポ)を用います。
リポは、軽量・高出力という特性により、従来型二次電池よりも高い性能を誇ります。
リポがなければ、ここまでマルチコプターが普及しなかったと言っても過言ではありません。
一方で、リポも含めてリチウムイオン系二次電池は、「高性能だが事故が多い」というのも特徴のひとつ。
繰り返される、リチウム系電池起因のパソコンなどのリコールでも運用の難しさは証明出来ます。
プロの機材として、必要なコストと時間を費やせば信頼性が上がるかというと・・・
それも違います。
ボーイング787のバッテリートラブルが何回となく繰り返されたことでも、この点は証明出来ます。

リチウム系電池に絶対は無い

この事実を受け止めることが、全てのスタートになります。

機内持ち込みリポが起因する墜落事故に関して

空撮屋が機内に持ち込むリポがフライト中に発煙・発火。
それが起因の旅客機墜落事故発生。

これは、0 [Zero]が想定している新しい形の旅客機墜落事故のパターンです。
・貨物機では、リチウム系バッテリー起因の墜落事故が発生している
・上空では、0.8気圧程度までキャビンは減圧される
・リポの製造品質は信頼出来ない
・空輸では不可能な容量のリポを手荷物なら持ち込めるという矛盾

全てのマルチコプター関係者に問います。
「そのリポは、0.8気圧環境下で短絡しないという保証が出来ますか?」
新品なら短絡の危険性は少ないと認めます。(それでも、無視出来ない潜在的な危険性は残る)
しかし・・・
使い込んで多少膨らんだ状態。
つまり・・・減圧されると、「より膨らむ」と想定出来るリポで何が起きますか?

以下に、2011年~2014年の間に0 [Zero]で購入したリポの中で発生しているトラブルの芽がある個体の一部を紹介します。
小さな空撮会社が3年間で購入しているリポでも、この程度の問題が発生しています。
偶然が重なれば、これらの個体が原因で重大事故となる可能性は十分にあります。

配線不良のリポバッテリー

トラブルが想定出来るリポの例:1

2012年に購入された、製造品質に問題があるとしたリポです。
内部のハンダ不良によりパッケージを押し上げています。
原因は、製造スタッフの技術不足と製品のチェック体制の不足。
この様な個体は、移動中の振動によりパッケージの破損。
つまり、短絡事故などが想定出来ます。

参考:技術解説 - 21) リチウムポリマーバッテリー

ジャムったフィルム

トラブルが想定出来るリポの例:2

内部検査により判明した製造時の瑕疵の例です。
本来は、フィルムと外皮(この場合は、赤いパッケージ)で二重に短絡から保護されています。
これは、フィルムが正しい位置に無く外皮のみで被服されていた例です。
信頼性が大きく劣ることは言うまでもありません。

参考:技術解説 - 82) 選別落ちリチウムポリマーバッテリーの例

意味不明の印

トラブルが想定出来るリポの例:3

短絡テストの際に、異常な動作をした個体の単セル。
この様な意味不明の記述がありました。
工業製品であるリポには、当たりもハズレも混在しています。
Aと言う個体が良好でも、Bと言う個体が良好であるという保証にはなりません。
「○○のメーカーが信頼出来る」では無く全数検査が必須です。

参考:技術解説 - 54) リチウムポリマーバッテリーの短絡テスト

海外ロケを全て断ったという0 [Zero]の実績

2014年12月現在。
全ての海外ロケなど、旅客機を用いる必要性のある業務の全てを断ってきました。
これは国内のマルチコプター空撮会社で唯一です。※
※:2014年12月 国内の空撮会社公式サイトをメジャーキーワードにて検索 0 [Zero]調べ

これが、リポ起因による旅客機墜落を想定していた0 [Zero]の実績です。
2011年のマルチコプター空撮の機材研究と同時に、リポの内部検査やフライトチェックを何度となく実施しています。
その都度に、リポの不安定さを確認している次第です。
業務の信頼性を確保するには、購入したリポの全ての内部検査が必要。
しかし・・・内部検査を実施し、オリジナルのパッケージを剥がすと持ち込みが出来なくなる。
この矛盾に対応する答えは・・・

「全ての海外ロケをお断りする」

この答えに行き着きました。
0 [Zero]では、旅客機にリポを持ち込んだ例は一例もありません。
海外ロケは当然として、沖縄や離島系の業務も全てお断りしていました。
(沖縄などの仕事も全て断ったのは、苦しかったです)
フェリーを用いた離島(北海道含む)の撮影は対応しています。
その場合も、リポを客室に持ち込みか?
それとも車内に残すのか?
この疑問に答えを出す為に、以下の様な耐火金庫の耐久テストまで実施しています。
54) リチウムポリマーバッテリーの短絡テスト

上記のページには、旅客機搭乗の想定されている一文がありますが・・・
結局ところは、旅客機には乗らないというポリシーを貫きました。

ボーイング787の発火事故でも明らかです。
全ての英知を結集しても、リチウム系バッテリーの絶対的な保証は不可能なのです。
リポは、膨らみやすいという特性があります。
これに、上空にて減圧されるという旅客機の特性も入る事から事故はより発生しやすくなります。
もちろん、1気圧下のテストや実績などは意味を持ちません。
あなたが墜落死する事のリスクを放置するのは構いません。
しかし・・・他人を巻き込むリスクを放置することは許せません。
速やかに抜本的な解決をお願いします。

コラム:海外ロケはどうすれば良いのか?

0 [Zero]も意地悪をする気はありません。
海外ロケの全てを全面禁止しろなどと言う気はありません。
マルチコプター空撮の業界が正しい方向で発展することを願っているだけなのです。
ここでは、「どうしても海外でロケ」という方向けにコラムを書きます。

◆ファントム推奨
旅客機の墜落事故という観点からもファントムは有利です。
軽い機体=危険性が少ないリポ
この様な公式が成り立ちます。
以下に具体的なファントムを用いたポリシー例を示します。
・可能であれば、現地にて新品バッテリーを購入
・購入から1年以上経過したバッテリーを用いない
・必要最低限の数を持ち込む
・ひとつずつ、透明な袋に保管(短絡防止)
・残量30%の状態で輸送
・難燃性且つ気密性の高いケースを用いる

これを守って頂ければ、事故の可能性は極めて低いと思います。
ファントムを用いる方は多いかと思いますので、ご自身の運用方法の見直しにお役立て下さい。
特に、充電容量を抑えると言う事は極めて重要です。

「購入から1年以上経過したバッテリーを用いない」という件に補足します。
ファントムのみを用いてる方の多くは、バッテリーの劣化を数値化出来る手段が無いかと思います。
この場合は、購入からの期間やフライト回数で管理するしかありません。
マルチコプターのバッテリートラブルは、墜落と直結します。
トラブルが発生する前にバッテリーは破棄が基本です。
ベテランカメラマンの方へ・・・
カメラのバッテリーは、マルチコプターのリポの様な大きな危険性はありません。
容量が低く、瞬間的な放電量の要求も少ない。
そして、パッケージも丈夫に出来る。
マルチコプターのリポは、あなたの経験したことの無い危険性を持った電池です。
「よくわからない」なら、1年で電池は破棄して下さい。
やはり、現地購入に勝る物は無しという事です。

◆大型機の場合
・バッテリーは現地にて調達
・撮影実施日前に、必要な日数を掛けてバッテリーのテスト

大型機の海外運用は非常に難しいと感じました。
まず、大型機運用のバッテリーを内部検査もせずに機内に持ち込みするなどという暴挙は止めて下さい。
「内部検査を行うと、持ち込みが不可となる」この様に反論するかと思います。
故に、大型機で海外ロケは事実上出来ないのです。
6Sクラスのバッテリーを30%程度まで落として短絡テストを実施してください。
多くの同クラスのバッテリーは、弾ける事により短絡を終わらせるはずです。
この際に、弾けるスペースを確保出来る気密性があり難燃性のケースが必要なのです。
ペリカンケースに純正ウレタンなどという組み合わせでは、発煙による窒息まで想定する必要があるでしょう。
0 [Zero]が大型機を海外で運用するなら、相当な費用を必要とします。
現地にて必要なリポを入手。(この為だけに先発隊)
そして、内部検査+テスト。(技術を有する正パイロットが必要)
もしも、リポが入手出来ないというパターンのバックアップの想定・・・
やはり、海外ロケは真面目にやれば原価が上がってしまいます。
0 [Zero]のポリシーでは、価格競争力がありませんね?

◆海外ロケの実績で、その会社の良心と技術は計れる
今まで、旅客機墜落事故のリスクには触れていませんでした。
それは、個々の良心に期待していたからです。
0 [Zero]以外にも、海外ロケを断る良心と技術のある同業者の出現を望んでいました。
結果は、火を見るよりも明らかで・・・
都合の悪い事は想定外として片付けているのです。
事実として、海外ロケを断っているなどという同業者のサイトはひとつも発見出来ませんでした。
それどころか・・・実績として海外を積極的に出しているとも取れました。
このページに記したとおり、リポの機内持ち込み(特に大型機)は、他人の命を形にいれている恥ずかしい行為です。
面白い(貴重な)映像を撮る為に、自身の安全を担保にするのは認めます。(0 [Zero]は、この方向)
しかし・・・第三者を巻き添えにするのは認められません。
警鐘コンテンツの切っ掛けは、「第9回湘南国際マラソン」にてのマルチコプター人身事故。
この様な第三者を巻き込むという観点からは、旅客機墜落のリスクも同じと感じたので取り上げた次第です。
つまり、大型機を人の上で飛ばすのも、安易に海外ロケを実施するのも、0 [Zero]からは同じと捉えていました。
関係者には、即時の抜本的解決を望みます。

最後に・・・
もしも、海外ロケを続けるというなら・・・
・0.7気圧+振動環境での耐久テスト結果
・バッテリーケースの気密性と耐火性
・発煙時の対処方法
この程度は、自社サイトで説明をお願いします。

公開日:2014/12/03
最終更新日:2014/12/03
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