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ドローン空撮[技術解説] - マルチコプター墜落原因の解析について

マルチコプター墜落原因の解析について

2014年11月3日発生の、「第9回湘南国際マラソン」にてのマルチコプター人身事故。
この事故を受けての啓発活動コンテンツの第四弾。
墜落事故の原因の探り方に関して。

はじめに

まずは、以下の事実から。

マルチコプターは発展途上にある。
墜落の可能性は未知数という前提で、全ての準備を進める必要がある。

事故機体の保全と現場の観察について

マルチコプターの墜落原因の多くをバッテリーが握っています。
一般(多くのプロ含む)の方の墜落原因の多くは、バッテリー起因と推測します。
墜落原因がバッテリー以外にある場合は、十分な経験と必要な知識が無いと墜落原因を掘り下げるのは困難です。
ここでは、バッテリー起因の墜落を中心に、事故原因の解析を可能にする対応方法を紹介します。

どのようなタイプの墜落でも、墜落事故発生時に装着されていたバッテリー保全につとめて下さい。

悪意が無くても墜落機に装着されていたバッテリーなどをパイロットが回収してしまうなどという事があり得ます。
この様な無意識の内に重要な痕跡が消してしまうことに備え、将来的には電圧ロガー装着義務付けなどの方向も良いかと思います。
これは主として墜落後の原因解析という観点からです。
なお、フライトコントローラーの低電圧自動GoHomeやバッテリーアラームも、バッテリー劣化起因の墜落には効力がありません。
トラブル発生時には、正常な電圧が数秒で急激に下がります。
GoHomeが入っても、機体はフラフラとすることからパイロットは暴走に入ったと勘違いします。(その後に墜落)
アラームが鳴っても、気が付く前に墜落します。

墜落事故が発生したとして、その後にパイロットと周囲の方が何をすれば良いか?
・墜落後に、機体から電源供給を速やかに切断
・そのままの状態で、バッテリーを常温保管
・分岐コネクタなどの小物も保管
・送信機も電源を切った後に、そのままの状態で保管
・直前に用いた充電器と用いたコネクタを明確に
・塩水・淡水に限らず、入水した場合は、速やかに各セル間も含めて電圧を記録

可能であれば、以下も記録として残して下さい(事故発生後の出来る範囲)
・2.4GHzの周囲の使用状況(コントロールに用いる周波数)
・高周波
・低周波
・機体を触ったと思われる方の帯電傾向。器機が無ければ服装の記録(乾燥期)
・現場周囲で用いられている無線器機(技的非適合品を中心に探す)
・周囲のカメラに墜落の瞬間が残されていないかの確認
本来ならフライト前に全てを知っている必要があります。
その場の計測で無いと意味が無い事も多いのですが、何もやらないよりは良いはずです。
2014年現在、マルチコプター墜落の原因として特定されていない物(低周波・高周波)も含みますが可能性として残します。

湘南マラソンの機体を0 [Zero]が解析するなら

以下は、適切な状態で墜落機体が保全されていたという条件で進めます。
なお、重大事故を起こした機体として解析を進める事から、通常よりも丁寧なテスト環境を構築してからの着手となります。

1):バッテリー電圧の計測
全ては、墜落時の状態が保全されているという条件で進めます。
ケース1:異常に低い=バッテリーの充電不良・使用後のバッテリーの再装着
ムース2:適切(残量60~80%程度)=放電特性のテストへ

2):放電特性のテスト
墜落機体の通常フライトをシミュレーション出来るベンチを用意。
モーター・モーターコントローラー・プロペラを1セット用意。
ベンチにて負荷を算出。(フライト時には、何A流れていたのか?)
テスト時の外気温は、事故時と可能な限り同一とする。
ブレさせるなら低い方向でテストは実施。
ケース1:1分以内に急激な電圧低下を確認=バッテリーの劣化起因と特定完了
ケース2:問題無し=低温テストへ

3):低温テスト
事故当時で、あり得る範囲の低温度を探り当てる。
移動や、保管場所・充電環境など、あり得る可能性の全てを検証。
そこから導き出された最低温度環境下で放電テスト。
バッテリーは、テスト温度以下で十分馴染ませる事。
ケース1:1分程度で急激な電圧低下を確認=バッテリーの劣化起因と特定完了
ケース2:問題無し=別の内容を墜落原因として想定開始(次は、フライトコントローラーへのノイズ)

◆バッテリーが再充電されてしまった場合
墜落時に用いていたバッテリーがわからなくなった場合は、上記の放電特性テストを可能性のある全てのバッテリーに実施します。
不幸にも、再充電がされてしまった場合も同様です。

墜落テスト後のプロペラ

◆0 [Zero]では・・・
今回のパターンは、各種バッテリー性能低下の限界テストで見掛ける挙動です。
離陸直後の数秒は問題無し。
その後、フラフラしながら直下に墜落。
何度となく、テストで再現性のある墜落パターンです。
数秒から1分と時間に開きがあるのは、バッテリーの劣化度合いと機体特性の違いから。
劣化が少なく余力がある機体なら発生は遅れます。
この様な場合も、低温環境でテストをすると発生までの時間は短くなります。
一般の方が再現するなら、バッテリーが切れるまさにその瞬間の挙動とも言えます。
この様なテストは、劣化により破棄することが決まったバッテリーなどを用い、安全な環境にて試すことをおすすめします。
特に、降雪後の深雪上はおすすめのテスト環境です。

0 [Zero]では、2014年現在でも様々なパターンを想定した墜落テストを継続しています。
事故直前にも墜落テストは実施していました。
記録からは、2014年11月2日(日)
11月4日の実務に用いる予定の機体を、この日に墜落テストさせています。
この日の墜落テストの目的は、 DJI Phantom純正プロペラに交換した為。
フライトコントローラーのパラメーター調整を実施したことに起因します。
テスト内容は、どの程度のマニューバでパーシャル域に入るか?
河川敷のラジコン飛行場の分厚い雑草の上で実施。
墜落しても、フレーム破損などには至らない場所でのテストです。
日常の事なのでページなども起こしていませんが、休日のラジコン飛行場なので目撃者は多数となっています。
各種ヒューズが働き、墜落数分後に飛行可能な状態に復帰しています。
そして、この2日後に、実務を無事に終えています。 なお、46) 墜落テスト[2.0kgクラス 6モーター 2012年12月編]にてページを制作しているのは、ファームウェアの確認とフレームヒューズの公開の為。
自社の敷地の芝生に落としています。
この様に、機体を墜落させるまでテストさせるのが0 [Zero]の日常。
この様なテストを数年は繰り返さないと、重量機の安全が保証出来ないと感じたことから、重量機参入を早い段階で見合わせ。
この見合わせは、2012年の段階です。
必要にテストを繰り返しているからこそ、マルチコプターの制御部分を信頼していません。
信頼していないからこそ、軽量機のみで業務を行う。
0 [Zero]に言わせれば、「当たり前の事を当たり前に」と言う事です。

コラム:現場に持ち込むべき計測器機

このコラムでは、空撮会社向けの苦言を書きます。
快く思わない方も、業界が正しい方向に向かう為に現実を突きつけます。

今回の事故以前にも、空撮会社のサイト等では安全について語られています。
それらの多くは、具体性に欠けると0 [Zero]の目からは見て取れました。
マルチコプターの世界は理屈の世界です。
精神論ではなく、可能な限り具体的に安全に留意していることを示す必要があります。
そのひとつが、実際に現場で何を計っているのかです。
以下は、0 [Zero]が現場にて持ち込んでいる計測器機。

・高周波(2.4GHz以外の電波)
・低周波(フライトコントローラー暴走の可能性を疑っている)
・2.4GHz帯ロガー
・GPS衛星位置計測装置
・クランプメーター
・静電気計測装置
・温度計
・風速計
・距離計測計
※参考購入金額:30万円

ラジコン飛行場で飛ばす事が前提なら、クランプメーターのみで良いでしょう。
用いている機体がフライト中にどの程度の消費電力にあるのかを把握すのは基本です。
※多くのマルチコプター参入のプロは持っていないと推測。
マラソン大会で飛ばすクラスなら、全ての器機を携帯する必要があると思います。
実際に計測すればわかることなのですが、イベント系の現場では怖いことになっている事がわかります。
0 [Zero]のアシスタントは周辺電波計測をする為のアシスタント。
異常値が出ている場合は、その旨をパイロットに伝え、安全な距離を確保して「マラソン大会のスタートを撮影」します。
根拠は全て具体的な数値です。

ここからがある意味本題。
「田舎でもスポット的に電波障害が発生する」
これは、現場にて実際に高周波などを計測すると見えてきます。
田舎の一軒家から、尋常では無い(健康に害がある)クラスの電波が出ているなどと言う事も、日常的に発生しています。
その一方で、まったく障害とならない変電施設なども・・・
重要なポイントは、市街地かどうかではなく、「障害を発生する可能性があるかどうか?」なのです。
障害がないなら、どんな都市部でもフライトは可能。
障害があるなら、林の上でもフライトは不可能。
以下が、2014年11月現在の0 [Zero]のポリシーです。

周辺の電波状況(郊外):0.01μW/c㎡にて報告義務 0.05μW/c㎡にてフライト自粛
周辺の電波状況(都市部):0.05μW/c㎡にて報告義務 0.10μW/c㎡にてフライト自粛
周辺の電波状況(発生源特定済):0.15μW/c㎡にてフライト自粛

補足します。
都市部と郊外で基準が違うのは、都市部には計測しきれないリスクが埋もれている為。
典型的なのが、遮蔽となっているビルよりも上に出た瞬間に障害に陥るというパターンを想定しての事。

「安全に気を付けている」と言うならば、必要な投資を行い具体的な数値で示しましょう。

公開日:2014/11/17
最終更新日:2014/12/16
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