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ドローン空撮[技術解説] - 空撮屋必修の書籍 :「一般気象学」

空撮屋必修の書籍 :「一般気象学」
一般気象学[第2版]

気象予報士の参考書「一般気象学」
実は、マルチコプターの基礎知識を付けるには最適な書籍です。

←事務所の本棚から。
バルーン空撮メインの頃(2010年)に、気象予報士取得の参考書として購入しました。
こちらの勉強は、2011年以降にマルチコプター空撮に参入したことから止まったままの状態です。
この書籍を最近になって見直したところ、マルチコプターの物理的特性の理解に非常に有効である事を再認識しました。
そこで、技術解説で紹介します。
大気構成を理解する為に太陽系誕生レベルからスタートするという、気象学の基礎を学べる書籍です。
気圧の仕組みからコリオリ力まで。
マルチコプターの物理特性を学ぶのに最適です。

気象現象の理解には、流体力学の知識を問われます。
この、「流体力学」は、マルチコプターが何故飛ぶのか?という理屈の説明にも必要。
マルチコプターは、従来型ラジコンヘリと異なる知識が必要である事がわかります。
高地対応・重心位置の高さ・強風耐性など、マルチコプターを飛ばすのに必要な基礎知識が、この一冊から得られます。

気象を理解したいなら、気象予報士資格に特化した書籍を。
「一般気象学」は、マルチコプターを物理から理解するのにおすすめします。

なお、「一般気象学」は、気象予報士の勉強に用いるような参考書なので・・・
当たり前の事ですが、天気に関する知識も付けられます。
マルチコプターは、それほど必要無いのですが、バルーン空撮では天気の読み方が売り上げに直結します。
バルーン空撮屋は、気象予報士の資格を持っていた方が良いと考えて勉強をしていました。

マルチコプターの基礎技術を計る物差し

まずは、結論から。

「マルチコプターを高地で飛ばすことを誇る方に、技術の高い方はいません」

申し訳ないのですが、事実ですので遠慮せずに記させて頂きます。
もちろん、根拠は以下でしっかりと示します。

・内燃機関を用いない(酸素量が少なくなっても出力が落ちない)
・テールローターを用いない(空気密度低下を実務の範囲では無視出来る)

マルチコプターは、以上から「高地フライトに向いています」
「一般気象学」を理解していれば、上記二行で説明は終了します。
マルチコプターに働く物理を理解していなければ、技術的な観点からマルチコプターを語ることは出来ない。
その最低限の知識を得る為には、「一般気象学」を一通り読めば十分と言えます。
ここまで書いても、学ばない方は多いと思いますので・・・以下で補足します。

内燃機関を用いない

ここは、理解しやすいと思います。
内燃機関は高地では出力が落ちます。
それは、燃料燃焼に必要な酸素量が低地と比較すると少なくなるから。
高度が上昇すると、何故酸素が薄くなるのか?
この答えも書かれています。
なお、「一般気象学」では内燃機関とは関係ない書籍です。
マルチコプターと内燃機関は、関連性が無い事から・・・以下は省略します。

テールローターを用いない

ここからは、少しレベルが上がります。
そして、「一般気象学」により得られた初歩の知識が役立ちます。
従来型ラジコンヘリコプター(テールローター付き)で解説します。

Q:海抜10mと3,000mでは、どちらがメインローターの回転が速くなりますか?(ピッチは固定と仮定)
A:海抜3,000mの方が速く回転する。

標高が高くなると、「空気が薄くなる」
ピッチを同一とすると、ローター1回転で得られる浮力は高地の方が減少する。
厳密には、高所の方が重力が減るが、空気の密度が下がる方が影響が大きい。
結果として、高地の方がメインローターの回転が速くなる。
従来型では、メインローターの回転トルクを打ち消す為にテールローターが存在します。
・高地では、メインメーターの回転数が上がる
・高地では、テールローターの効率が下がる(空気密度が下がることから)

メインローターの反動トルクは増えて、それを打ち消すテールローターの効率は落ちる。
テールローターを用いる従来型は、例え電動でも高地になると不利になる事がわかります。
従来型ラジコンヘリコプターのベテランの方にわかりやすく言うと・・・
「ペイロードを増やすと、純正テールローターでは押さえきれないのと同じ現象です」

仮に従来型電動ラジコンヘリコプターで高地限界のテストを実施したとすると・・・
メインローターで必要十分な浮力を確保しても、平地対応のテールローターでは反動トルクを押さえきれなくなると推測出来ます。
なお、実務では従来型電動ラジコンヘリコプターを高地撮影で用いる可能性を残します。
従来型には、マイナスピッチというマルチコプターで実現出来ないメリットがあります。
断崖絶壁などで極端な上昇気流が吹いている環境では、従来型で無いと飛べないという可能性が残ります。
※2013年現在のDJIのフライトコントローラーは、想定以上の上昇気流でプロペラを止めてしまいます。

空気が薄くなるほど、テールローターのロスが増えてくる。
このロスが無い事から、マルチコプターは高地に有利と言えます。

マルチコプターは、どこまで高地で飛べるのか?

ここからは、さらに上級な内容。
このページに記している「一般気象学」を読みこなしているという前提で進めます。

Q:マルチコプターは、どこまで高地で飛べるのか?
A:呼吸が出来るなら、マルチコプターは飛びます。

空気密度が下がれば、回転数で浮力を稼ぐしかありません。
現実的な限界は、モーターの回転上限で打ち止めとります。
ならば、高地対応として、大きく深いペラを付ければとなるのですが・・・
それでも必ず限界は来ます。
ここまでは、机上で限界を計算することが出来ます。

回転を上げても回しきれないのでは?という突っ込むラジコン経験者もいるかと思います。
それは少し違います。
空気が薄くなると、プロペラが発生する揚力は落ちますが同時にドラッグも減ることになります。
つまり、回転数の限界に限って言うと・・・高地の方が「回ります」(仕事率とは別の話)
なお、この計算をすると出てくるのは・・・
エベレストの山頂でも問題無しです。(あくまで机上)
※空気の密度の低下と、モーター回転上限から計算
実務(エベレスト山頂でのマルチコプター)で、問題になりそうなのは標高よりも上昇気流対策になります。

なお、「低地よりも、高地の方が同じプロペラなら回転限界は上がります」
それは、空気の密度が下がることにより、プロペラ1回転あたりの仕事量が減るから。
空気抵抗が減るわけですから、回転数の限界は上がることになります。

高地対応では、プロペラ改修が必須です。

重い機体と軽い機体は、どちらが早いか?

マルチコプターの基礎知識を試す例題をもうひとつ。

Q:重たい機体と軽い機体は、どちらが速度を出せるか?
A:重たい機体

これも、「一般気象学」が読みこなせば、簡単に答えは見つかります。
あなたは、即時にこの答えをイメージ出来ましたか?

十分なモーター余力があるという想定になりますが・・・
総重量の10%程度のウエイトを追加して飛ばしてみて下さい。
理解出来ないなら、実践して確認してください。
理屈が理解出来なくても、速度が上がるという事実は受け入れるしか無いでしょう?

この現象を応用すると・・・
重たい機体の方が横風に強い事に気がつけます。
ただし、対風性能を語る上では上下方向の重心も考える必要が出てきます。
低重心の機体は、物理的に横風に弱い。 (速度も遅くなる)
この理由を即答出来る方は、どの程度いるのでしょうか?
どちらにしても、「一般気象学」を読むことによりマルチコプターの物理に関する知識は大きく広がります。
同時に、いい加減な知識で、ブログなどを書いているプロが多い事も・・・気がつくことになります。
もちろん、設計レベルで低重心な、某有名メーカーの機体は・・・
私の目からは、メーカーもそれを使っている会社も、技術レベルが低い事を証明しているように見えてしまいます。
中には、バッテリー搭載位置で、「重心を上げている」方もいるかと思いますが・・・
アームによるドラッグ(丸か水滴がベスト思います?)や、例の上反角による効率ダウンの説明が付きません。
例の上反角は、横風に弱くなる=最高速度が下がる=バッテリーの稼働時間も下がる
カメラの映り込みに関しては、別の方法で回避可能。

遅すぎることはありません。
今からでも「一般気象学」を購入し、正しい基礎知識を身につけて下さい。
※気象予報士レベルの知識を有している方は不要です。

この基礎知識で、買ってはいけない機体(設計的に正しくない)は、直ぐにわかります。

コラム:自分の言葉で語ること

他社のサイトを拝見して感じる事。
「コピー・ペーストしか出来ないのか・・・」

マルチコプター空撮という業務は、他の仕事と大きく異なります。
一歩間違えば、他人の財産と人命を危険にさらすことになる。
それ故に、自己責任で様々な事柄を管理する必要があります。
弊社サイトも含めて、ネット上の情報を参考にするのは良いと思います。
問題は、その情報を鵜呑みにすること。
責任を取らなければならない以上は、自分で確認した上でポリシーを示す必要があるのでは無いでしょうか?
今回は、マルチコプターと高地対応を取り上げています。
この一点から、その会社の技術力(鵜呑み具合)がわかるとしています。
「鵜呑み会社」の場合は、「一般的に」などという逃げを伴いつつ高地でのフライトは注意が必要と書かれています。
上記していますが、マルチコプターは物理的に高所につよい物です。
0 [Zero]では、初期の段階から高地対応のコンテンツはそれほど用意がされていません。
思い当たるところでは、33) 軽量マルチコプターだから出来ることが該当します。
開発着手から半年後にテスト実施。
記事は33番目。
この事からも、開発当初からマルチコプター空撮の高地対応の心配をしていないことがわかります。
なお、バルーン空撮の技術解説では、初期(4番目の記事)
ヘリウムガスが浮力媒体となるバルーン空撮では、高地=浮力の低下に直結するという認識があることがわかります。
何を言いたいか・・・
0 [Zero]の場合は、書籍などで正しい知識を事前に収集。
その知識を、自分の実務に当てはめる。
その後に、優先順位の高い順番に実地テストを行う。
この様な、「正しいながれ」を、過去の開発作業でも行っています。
0 [Zero]の技術解説には、オリジナルのコンテンツが多い。
世間の常識とは、一部異なったことも書かれている。
それは、疑問に感じたことを、必要なコストと時間を費やして確認しているからです。
その実地結果を元に、ページを作成していることから・・・自分の言葉で語ることができる。
他のサイトからのコピー・ペーストなどは一切必要としません。

1.必要な情報を収集する(書籍・ネットなど)
2.それを実際に確認する

「実際に確認する」を怠るのは、従来型ラジコンヘリコプター空撮の歴史が長い会社に多い落とし穴です。
高地でのマルチコプター空撮のフライト実績を誇らしげに書いてしまう・・・
これは、マルチコプターの技術レベルが低い事を、そのまま証明してしまっています。
従来型の電動ラジコンヘリコプターの高所フライトは・・・これは技術が必要です。
机上で想定出来る範囲で最大ピッチの確保と、それを回しきれるモーターの用意。
必要なら、現場にてテールローターのギア比とブレードの交換。
しかし・・・これすら、公式は起こせます。

自分自身で検証を行う。
その結果を語る事がプロとしての責任です。
「一般的には・・・」とか「同業者の・・・」とか、他人の言葉を借りるのは恥ずかしいことです。
取りあえずは、「一般気象学」でも購入して「当たり前の事」を学びましょう。
そして、自分の言葉で語りましょう。

公開日:2013/10/27
最終更新日:2013/10/28
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